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札幌高等裁判所 昭和25年(う)450号 判決

控訴人 被告人 若松栄治

弁護人 中山信一郎

検察官 小松不二雄関与

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人の控訴趣意は別紙のとおりである。

第一点

原審が第一回公判期日において、検察官が証拠調の請求をした司法警察員に対する川合フミ、種房正行、荒木節子、坂口富蔵の各供述調書について採否を留保し其の後之を留保の侭弁論を終結し判決をしたことは所論のとおりである。しかして右各供述調書は刑事訴訟法第三百二十一条第一項第三号又は第三百二十六条の場合を除いては其の証拠能力を欠除するものであり、右各所定の要件を充足しない本件の如き場合には原審は之を却下しておくのが正当である。しかしかゝる証拠能力のない書証の採否を留保した侭弁論を終結し判決したからと言つて原審の訴訟手続に判決に影響を及ぼすべき法令違反があつたとは言われないのみならず、原審は上記各供述者本人をいずれも其の第二回公判廷において証人として取調べ其の供述を証拠として引用しているのであつて原判決には何等の違法がない。論旨は理由がない。

第二点

刑事訴訟法第三百一条には被告人の供述が自白である場合には犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後でなければその取調を請求することはできないとあるけれども、検察官が同条に違反した場合においても裁判所が同条所定の「自白」を取調べる前に他の証拠が取調べられて居れば何等偏見又は予断を生ずる虞れが無いから同条に違反するものとは云えない。本件に於て原審検事が原審第一回公判期日において他の証拠と共に司法警察員作成の被告人の自白調書である第三回供述調書の取調を請求したことは所論のとおりであるが、原審は犯罪事実に関する他の証拠を取り調べた後右の調書を採用していることが明白であるから、原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすべき法令違反があつたとは云われない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却し同法第百八十一条第一項に則り当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

(裁判長判事 黒田俊一 判事 猪股薫 判事 鈴木進)

弁護人の控訴趣意

原審においては、判決に影響を及ぼすこと明らかな訴訟手続の法令違反がある。

(一) 原審第一回公判期日において、検察官は、他の証拠と共に「川合フミ、高島長松、種房正行、荒木節子坂口富蔵らの司法警察員に対する各供述調書」の取調を請求したところ、(記録第一六丁参照)裁判官は、被告人側の意見を聴いた上右証拠の取調請求は、その採否を留保する旨を告げ、(記録第一九丁参照)その後第三回公判期日において右の中「高島長松の司法警察員に対する供述調書」はこれを取調べる旨決定せられて証拠調が行われたのみで、その余の分については依然留保の侭で刑事訴訟規則第百九十条により採否の決定をすることなく、漫然証拠調を終了する旨を告げて、訴訟手続を進行した後弁論を終結し判決を宣告している。

(二) 原審第一回公判調書をみると、検察官は他の証拠と共に「被告人の司法警察員に対する第三回供述調書」の取調を請求しているが(記録第十六丁十七丁参照)この供述は被告人の自白であるから刑事訴訟法第三百一条の規定に違反する手続である。

上述の諸点は、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反というべく、原判決は到底破棄を免れないものと信ずる。

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